魔女の歴史はネットで検索しただけでも色々な説が出てきます。
昔(私が駆け出しの頃)は歴史系の学術書で調べたり、あるいは運良く指導者に恵まれた場合は師匠に自分たちの大先輩たちの歴史を口頭で習い覚えたりしたものです。
とはいえ、歴史系の学術書で魔女関連のものは少なく、しかも後の世の史料の発見などで通説と書かれていた気ものが間違っていたりと、これだって大して当てに出来るものではありませんでした。
それでは師匠に口頭で習う魔女の歴史はどんなものでしょう?
ここからは私の経験で話を進めます。
(とんでもなく簡単に話をすれば…)
魔女そもそもの起源はキリスト教よりはるかに古い伝統から始まります。
古代の遺跡に残された壁画などもこの古い魔女のルーツにつながる可能性すらあることを示唆されます。
(中略)
やがて、各集落にいわゆる「村の魔女」としてある時は医師や薬剤師、あるいは助産婦、またあるときは村の長にアドバイスをし、困った人が相談にくれば不思議な術で助け、集落中の人から信頼を得ていた話などが続きます。
(中略)
しかし、そうした幸せな魔女の時代も14世紀以降のヨーロッパを席巻した魔女狩りによって終わりを告げ、魔女たちは地下に潜り、その教えと命脈を保った……
(以下略)
というようなあらましの話を教えられたものです。
ところが、残念ながらこの歴史は間違っています(笑い
そもそも、魔女狩りは1970年代以降の学術的研究や発見された史料などからその始まりは15世紀以降だろうといわれています。また、古代遺跡との関係もかなり怪しいものです。
しかし、そうした正確な歴史がわかってきたらこうした口頭の歴史は修正され、オリジナルは忘れられるべきなのか?というと話はそう簡単ではありません。
実はこうした口頭で伝えられる歴史の話の中には後輩の魔女への色々な暗示的な意味が含まれていたり、あるいは(それが事実としては明らかな間違いだとしても)話自体が自分たちの流派のアイデンティティを教えるために、教える側も既に歴史学的に修正されていることがわかっていたとしてもそのまま教えたりするのです。
ある意味正確な歴史はあとから自分で学べばよい、という発想なのかもしれません。
この口頭で伝えられる歴史の大切さはその流派にとってのアイデンティティを伝えるためのものであり、ある意味その流派にとっての神話とも言えるものなのです。
どの国の神話も歴史学的に、自然科学的に最新技術で検証した場合間違っていたり、そこまでするまでもなくあり得ない話になっているものの方が多いのは誰もが認めることだと思います。しかし、神話の全てが厳密な意味での事実でないからといって、あるいは事実でない部分があるからといって神話の価値がなくなったり、人々が神話を捨てさったりすることはありません。
神話には歴史とは別の、そしてある意味歴史以上の意義と価値があるからです。
そうしたことを頭に入れて魔女の歴史に向き合うことが本来の姿なのです。
もちろん、こうした口頭によって代々伝えられたものではない「新しい魔女の歴史」も今ではいくつも存在します。それは20世紀半ば以降のフェミニズムの考え方を強く反映させたものであったり、神話を新しく造り上げてそれを元にしたものや、あるいは口頭の歴史の一部を誰かが改変して伝えているものなどさまざまです。
でも、そうしたものもそれを信奉する魔女たちにとっては事実以上に大事なもの出ある場合も少なくないでしょう。
魔女や魔女志願者にとっては自分が学んだり、伝えられた魔女の歴史に対して
「そこから何を学び、何を自分のものとしていくか」
を時々立ち止まって考えてみることが大事なのです。